標準物質生産者の認定

-JCCLSは標準物質生産者(ISO 17034)の認定を取得しました-

公益社団法人 日本臨床検査標準協議会
会長 高木 康

日本における臨床検査の標準化と質的改善を目的として1985年に設立されましたJCCLSは、2003年に「臨床検査標準化基本検討委員会」を発足させ、その一環として、「標準物質・基準測定法の基盤整備」掲げました。そして、各種先端技術の導入が次々と見込まれ、日進月歩の絶えない臨床検査の環境の中で、“適正な標準化”に取り組むことを可能にする枠組みの構築や基盤整備などを含み、未来永劫、“終わり”のない標準化活動を粘り強く展開し続けております。

標準化の基本は申すまでもなく、“信頼性の高い”標準物質を骨格として、それに対するトレーサビリティ体系に従って行うものであり、“信頼性の高い”標準物質の確保が最重要課題であります。この標準物質の製造・供給を行う能力を有していることを国際的に認定する制度として、ISOガイド34及びISO/IEC 17025に基づき審査・認定する「標準物質生産者認定制度」があります。

この制度に基づく標準物質の生産者は、
① 標準物質素材の供給部門、

② 特性値を測定する試験所部門、

③ 特性値を決定する認証部門、及び

④ 全体を統括する管理部門

の4部門から構成されていなければならないとしています。

そして、その一部の生産プロセスを協力者(下請負契約者)に委託することを認めていますが、「生産計画」、「特性値の付与及び決定」及び「特性値のオーソリゼーション及び認証書の発行」は、標準物質生産者自らが行い、協力者である第三者に委託してはならないとしています。

JCCLSはこの制度に基づき、平成25年3月29日付で、公益財団法人 日本適合性認定協会(JAB)による標準物質生産者認定を取得しました。一般に認定審査の対象範囲は、一つひとつの標準物質の積み上げであるため、先ず、旭化成ファーマ(株)が開発・製造しておられるヒト遺伝子組み換え酵素標準物質、「常用参照標準物質:JSCC常用酵素(CRM)」に的を絞り、それらの製造及び供給に対してこの認定を取得いたしました。

このCRMの7種類の酵素標準物質に対して、従来、JCCLSが非公式に認証書を交付し、他の第三者が供給を担当していたものに、現状の製造・供給体制を当該規格の要求事項に沿って改善の上、国際標準に適合するよう再構築し、JCCLSを公式な標準物質生産者として運用することにいたしました。その後、「多項目実用参照物質(MacRM-001)」などに認定対象品目を拡大し、JCCLSがこれら標準物質の生産、認証、供給に携わる第一人者であるための立場を固めて参りました。

ご承知のように、2016年11月1日付けで標準物質生産者の認定では、ISO 17034 (標準物質生産者の能力に関する一般要求事項)の要求事項を認定基準として採用することが国際試験所認定協力機構 (International Laboratory Accreditation Cooperation, ILAC)で採択されました。これに伴い、本協議会は、標準物質生産者認定における認定基準をISO Guide 34からISO 17034に移行する審査を受け、2020年8月12日付けで認定されました。この制度の重要なポイントは、対象品目ごとに“標準物質生産者”認定の証として、標準生産者としての技術能力に対する要求事項を満たすだけではなく、組織全体として、ISOが定める品質マネジメントシステムを維持構築することが求められていることです。即ち、“モノ”という固定的な結果よりも、それを生み出すプロセスをより重視して標準化することが求められていることです。

“標準物質生産者”としての認定を取得したメリットには次のようなものがあります。

1) 標準物質生産者の役割とその信頼性の向上

標準物質生産者の認定は、信頼できる技術能力の指標として、国際的に高く評価されています。この認定により、適切な品質の標準物質を供給できる技術能力のある標準物質生産者として、信頼を高めることが期待できます。また、供給される標準物質はトレーサビリティの証拠として認められます。

臨床検査の分野において、この認定制度に基づく生産・試験のプロセスを通して得られた標準物質に対して、国内はもとより世界的な信頼が得られます。すなわち、JABによる認定を取得することにより、ILAC/APLACなどとの国際相互承認制度を通して、IRMMやIFCCなどの海外関連団体との取引が促進され、さらに海外顧客の信頼を得て、輸出の機会が増進します。

2) 標準物質生産者の組織強化

標準物質生産者は、本認定取得を目指すことによって、組織の強化を図ることができます。

公的認知、技術能力の証明、ステータス、信頼性の確保などは、臨床検査の標準化の分野における国内第一人者を標榜するJCCLSにとって必須要件であります。

技術レベルの向上、業務の標準化、質の向上、コスト削減、要員のレベルアップ、不確かさの概念の定着、トレーサビリティの明確化、計測機器管理の促進、ノウハウの蓄積、外部精度管理の評価などに著しく貢献できます。

今後は、この“標準物質生産者”としての有効性を継続するため、JABによる更新審査が永続します。この度の認定取得は、JCCLSにとって本格的な標準化活動や品質マネジメントシステムの構築・維持の始まりに過ぎないことを肝に銘じ、所謂、“完成”のない臨床検査の標準化活動に邁進いたします。

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